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COLUMN

AIやツールを選ぶ前に

三谷 健太

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「AIで何かできませんか」

このところ、そう聞かれる機会が増えています。続けて出てくるのは、たいてい同じ言葉です。何から手をつければいいのか分からない、というものです。

すでに何かを導入した会社では、話が少し複雑になります。ツールは入っています。契約も続いています。それでも現場の忙しさは変わっていません。導入の判断が間違っていたのだろうかと、経営者は自分を疑い始めます。

入れたのに、楽になっていない

そういう場合、ツールそのものが悪かったことは、あまり多くありません。起きているのは、もっと単純なことです。そのツールが当たった先は、本当に時間を食っていた工程ではありませんでした。

時間が消えている場所は、たいてい人の間にあります。前の担当者が入力した数字を、次の担当者が別の様式へ入れ直しています。月末になると、誰かが電卓を叩いて手集計をしています。ある手順は、一人の頭の中にしかありません。その人が休むと、その日は進みません。

これらに共通するのは、どれも業務の一覧に名前がついていないという点です。日報にも組織図にも、二重入力という工程は出てきません。誰かが黙って埋めているからです。名前がついていない以上、ツールのカタログを眺めても、それに対応する製品は見つかりません。

導入が失敗したのではなく、探す場所が違っていたわけです。

工程を先に決める

ですから、「AIを入れたい」という考えを止める必要はありません。順序を入れ替えるだけです。

先に決めることが二つあります。

一つめは、どの工程を置き換えるのかを名指しすることです。 「経理を効率化する」では名指しになりません。「受注データを販売管理と会計へ二度入力している、その二度目をなくす」まで下ろします。ここまで下りて初めて、ツールを比べる基準ができます。基準がないまま比較を始めると、残る判断材料は機能の数と価格だけになります。

二つめは、空いた時間の行き先を決めることです。 これを先に決めない改善は、元へ戻りやすくなります。月に十時間が浮いたとして、その十時間が別の作業で埋まれば、会社としては何も変わっていません。浮いた時間を何に使うのか。人を増やさずに受注を増やすのか、経営者自身が現場から一歩引くのか。どちらを選ぶかで、そもそも着手すべき工程が変わります。

この二つめは、粗利に接続する話でもあります。減らした時間は、それ自体では利益になりません。空いた時間が何に向かうかで、初めて数字が動きます。

もう一点だけ加えます。AIに任せてよいのは作業であって、判断ではありません。 出てきた答えを検証せずに採用し始めると、速さと引き換えに、経営者にしかできない仕事の質が落ちます。ツールは考える力を増幅させるものであって、考える主体を置き換えるものではありません。

一週間、時間の行き先を書き出す

最初の一歩に、ツールは要りません。紙で足ります。

一週間、社内の主な担当者について、何にどれだけ時間を使ったかを粗く記録します。分単位である必要はありません。そのうえで、三つだけ問います。

  • 同じ情報を、二回以上入力している場所はどこか。
  • その人が休んだら止まる工程は、どれか。
  • 経営者自身が、判断ではなく作業に使っている時間は、週に何時間か。

一週間あれば、たいていいくつかは出てきます。出てこなければ、まだ手をつける段階ではありません。 その場合に必要なのはツールではなく、どこで稼いでいるのかを数字で見ることのほうです。

ツールの選定は、そのあとに来る

工程が決まれば、ツールを選び、実際に置き換える作業が始まります。誰がそれを担うかは会社によりますし、社内で完結する場合もあります。

工程の棚卸しから置き換えまでを外部と進める場合の流れは、業務の棚卸しと仕組み化にまとめています。

給与計算や社会保険の帳票が絡む工程は、扱いが変わります。労務の判断を含むため、社会保険労務士の領域として切り分けてください。会計の処理方法についても、顧問税理士に確認してから動かすほうが安全です。

比べるべきものは、ツールの機能ではありません。そのツールが、名指しした工程に当たるかどうかです。

三谷 健太
PROFILE

三谷 健太

経済産業大臣登録 中小企業診断士。三重県菰野町を拠点に、北勢地域を中心とした中小企業を支援しています。

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